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私の人生を消費して。骨の髄まで美味しくしゃぶりつくして。 ツイッター@世界ID:@at_sekai

穴埋めに孔を開けた。

廿代も半ばにさしかかって、今さら生まれてはじめてピアス孔を開けた。今までずっと開けたい気持ちよりも体に孔を開ける怖さの方が勝っていたのだけど、最後の1個、お気に入りのイヤリングを片方なくした時に、もう開けるしかないという気持ちになった。ピアスの孔を開けた。

自分で開けるのは怖かったので、病院に行くことにした。受付のおねえさんは目頭を切開していた。ピアス孔開けたいんですけど。どこですか。耳に。じゃあ名前ここに書いて。あ、先払いです。2400円。自分で孔の位置を決めてください。そこにあるマッキーで。細い方使ってね。わからなかったら聞いてください。最初に手に取ったマッキーはインクが切れていた。とりあえずイヤリングの跡が残った場所に点を打つ。左右が対象にならない。擦ったら落ちるかしら。…まあこんなものかな。できました。あら随分大きな点なのね。呆れたように小さく笑う。まあ大丈夫でしょう。じゃあこちらの診察室へどうぞ。

診察室は歯医者のようだった。なんだかすごいスピードで進んでいく。私のした決心のちっぽけさを見せつけられているようだ。視界の端に何か緑色の大きな機械が映る。ピアッサーだろうけれども、見たらよけいに怖くなりそうで直視できない。少し痛みますよと先生がいう。それはそうだ。私の体を針が貫通するのだから。小学生の時に痛覚の通らない薄皮を、おっかなびっくり、でもやめられなくて、安全ピンで刺していたあれとは訳が違う。赤い肉や毛細血管を突き破る感触を、私は生々しく感じられることだろう。

ガシャコン、耳元で突然。思ったよりも大きな音で響く、続けて痛みが、はーい反対いきます、ガシャコン。終わりです。2ヶ月くらいはつけたままに。毎日消毒してくださいね。それじゃ。それだけですか!?なんか頼りないなあ。

じんじんと熱を持った耳の上で、キラキラとチープに光る小さな石。本当に本当に小さくて全然目立たないというのに、ちょっと髪をかきあげる時、服を脱ぐ時、着る時、ぬいぐるみに頬を寄せる時、顔を洗う時、いちいち引っ掛かっては存在を主張してくる。しばらくは慣れないだろう。毎日花に水を遣るように、この傷を管理していとおしむ日々がはじまる。時に面倒くさがりながら、でも膿んでしまうのは怖いから律儀に面倒をみるだろう。消毒液がしみる痛みに顔をしかめつつ、傷を恐れつつ、でもきっと。

私の体には孔が開いた。もうイヤリングを片方落としたり、可愛いピアスを諦めたりしなくていい。昨日までとは少し、しかしはっきりと違う日々を、今さら生きる。別に今さらなんてことはないか。今から生きる。

 

今日の日記、ちょっと金原ひとみっぽい文章じゃない?じゃあおやすみ。あたたかくして眠れ。